ヒーローの苦悩と継承の物語──映画『スパイダーマン:スパイダーバース』

noteに書いた記事をトピックごとに分割して掲載します。

https://note.mu/facet31/n/ne5d574fc5585

 

はじめに

 あまりにも最高だったため一週間で二回も見に行ってしまった。正直もう一回くらいは見に行きたい。どう最高なのか。まず物語として、並行世界のスパイダーマンが出てくるお祭り映画の側面があり、それが少年の成長譚を軸にした継承の物語という本筋に分かちがたく結びついているところですね。日本版の予告編は後者に重きを置いてます。

https://youtu.be/rSfrXXthnuQ

 映像的にも、アメコミ調や実写調など異なる媒体の表現を横断しながら見たことのないような映像が洪水のように押し寄せてくる。ロゴの段階から飽きさせないという驚異の映画です。やばい。


あらすじ

 序盤のネタバレになりますがあらすじを書いておきます。

 これはマイルス・モラリス(吹替:小野賢章)というアフリカ系+ヒスパニック系の少年が、ピーター・パーカー亡き後のスパイダーマンとして独り立ちする物語だ。師匠になるはずだったピーターを目の前で亡くしてしまったマイルスは、既製品のコスプレスーツを身につけて、スパイダーマンのコミックを参考にしながら先代のようになるべく修行する。しかしお話の中のようには上手く行かずに落ち込んでいると、ピーター・B・パーカー(吹替:宮野真守)という、中年になって人生に不全感を抱いていてる並行世界のピーターと出会う。彼はマイルスの世界のピーターとは違って面倒見はよくないのだが、なんだかんだでスパイダーマンなので能力は確かであり、マイルスは彼とコンビを組み、先代のスパイダーマンと結んだ「約束」を果たそうとするのだが--。


ヒーローの孤独と苦悩

 マイルスが「自分らしさ」や「どうしたらスパイダーマンになれるのか」について迷っているのと同じように、並行世界のスパイダー(ウー)マンたちも悩みを抱えている。ピーター・B・パーカーは人生に挫折感を覚えていてヒーローであることに対してポジティブになれない。もうひとりの主要人物、並行世界のスパイダーウーマン:スパイダー・グウェン(吹替:悠木碧)はヒーローとしての苦悩を共有する仲間がいないことに孤独感を感じている。そんな彼ら・彼女らのヒーローゆえの苦悩も、マイルスのドラマと平行して解決されていく。これは見ようによってはマイルスがこの先でぶつかるであろう障害を一緒に描いているとも言えますね。

 

信じて、飛べ

 終盤、ピーターBがマイルスにかける言葉、「あとは勇気だけだ。信じて、飛べ。」というフレーズがこの映画を象徴している。コピーに使ってもいいくらいに良い。「信じて、飛ぶ」勇気をもっているのがヒーローだ。ピーター・B・パーカーはかつての自分を思い返しながら、いまの自分を鼓舞するようにこの言葉をマイルスに投げかけたのだと思う。誰を信じるのか? それは自分自身であり、同時にどこかで誰かのために闘っているヒーローという存在そのものだ。他の誰かを、自分自身を信じて飛べ。それが勇気であり、ヒーローの在り方なのだとこの映画は力強く訴えかけてくる。同時にこの映画がなぜこれほど高い品質で作られ、高度な試みに成功しているのか腑に落ちた気がする。これは、かつて勇気を出すことや信じることそのものを信じさせてくれたヒーローとその生みの親への恩返しとして、あるいはその意思を継承するという強い使命感をもって作られた作品なのではないか。いや、そうに違いないのである。

生きることに対する勇気をもてましたね、観ていて。